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「禍福はあざなえる縄の如し」という。昨年4月29日、廃校になった秋田県山本郡三種町のわが母校鯉川小学校に「橋本五郎文庫」がオープンし、この4月28日には文庫開設1周年を祝う記念式が行われた。地元のお年寄りをはじめ700人の人が来てくれた。わずか500人しかいないところである。テレビキャスターの辛坊治郎さんが手弁当で講演に来てくれた。水、土、日曜の一週間に3日だけの開館だが、この1年で入館者は5000人を突破した。地元のボランティアの支えがあったから可能だった。
その2週間前、妻がくも膜下出血で倒れた。土曜朝の読売テレビの番組のために大阪に着いた金曜日の夜11時過ぎ、娘から「お母さんが倒れて今救急車を呼んだ」と電話があった。読売テレビのチーフ・プロデューサーに連絡、一番早く東京に戻れる方法を調べてもらった。大阪発0時34分の寝台特急「サンライズ出雲」があった。乗車してすぐ娘から「病院に運ばれたけど意識がない。午前3時から手術してくれる」と連絡があった。寝台車に横になりながら、次から次へと後悔が襲ってきた。日頃頭が痛いと言っていた。単なる口癖だと思わず、医者に連れて行けばよかった。脳ドックを受けさせるのだった……。多くは望まない。生きていてくれればそれでいい。痛切にそう思った。
7時8分、東京駅に着き、車で八王子にある病院に着いたのは8時20分。娘は待ちかねたように廊下に出てきて、涙を浮かべながら胸に飛び込んできた。気持ちを張りつめていたのだろう。父親の顔を見て一気にこみ上げて来たのだろう。いとおしさでいっぱいになった。手術が終わって先生から説明を受けたのは11時すぎ。「出血は止めました。でも、予断は許しません。意識がいつ戻るかまだわかりません」
意識不明の状態がしばらく続くと覚悟したが、手術から2日目には目を開けてくれた。10日から2週間後に高い確率で起こる「脳血管攣縮」の危機も乗り越えてくれた。3週間余り経ったいま、まだ言葉は発することができない。ハサミと飛行機の区別もできていない。それでも、自分の名前は漢字で書くことができる。自分の力で車椅子にスムーズに乗れるようにもなった。
自分にできることは何かを考えた。何の役にも立たないが、できるだけ多くの時間、側にいよう。そう思い、倒れてから3週間は、予定していた講演などを変更してもらった。病人に付き添いながら頭が下がったのは看護師さんやリハビリの先生である。患者のどんな要求にも嫌な顔ひとつせずにこたえ、笑顔で病人を元気づけ、一生懸命ほめてあげている。そこには「職業」を超えて「献身」の姿があった。
私自身、12年前に癌で手術した時に見た光景でもあった。そして、ナイチンゲールの言葉が確かであると思った。「もっとも幸福な人びと、それは病人の看護に携わっている人びとである」。主治医の先生はもちろんだが、看護師さんに心から手を合わせたい気持ちでいっぱいの毎日である。
次回の『時代を読む』の掲載は6月1日を予定しております。
2012年5月16日(水)
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