昨年夏の参院選で“衆参ねじれ現象”が生じ、政界は混乱している。衆院3分の2の圧倒的多数を誇る自公与党が衆院で法案を可決・通過させても、野党が反対する法案は参院でことごとく否決され、不成立に終わるからだ。
 予算案は参院に送り込まれれば30日後には自然成立する。しかし一般の法案は参院で否決されれば不成立だ。日切れ法案のような成立させないと予算執行が出来なくなる重要法案は憲法59条の規定で、衆院で「再議決」すれば成立させることが出来る仕組みになっている。
 しかし重要法案を一つ一つ「再議決」していたら手間がかかり過ぎ、定められた国会会期中に成立させるのは難しい。参院多数を握る野党側は「再議決は『参院多数』の意向を無視する多数の横暴だ」と批判する。憲法が定める「再議決条項」は何度話し合っても結論を得ることが出来ない「重要法案に限って適用するのが筋であり、ダンビラのごとく振り回せば「多数横暴」になる。適用するとしても「1国会1回」だろう。

「自衛隊アフガン出兵」の小沢理論は破綻
 福田首相は先の臨時国会で「テロ新特措法」を3分の2条項で成立させた。58年ぶりのことだった。審議時間は十分取り、民主党の対案を否決した末の59条適用だった。自公政権は同盟国への信頼関係を再構築することが出来た。手間はかかったがこれで3分の2条項適用の実績を切り拓いた。
 自民党議員の多くは当初、「テロ新法を再議決したら“多数横暴”として世論の強い反発を買う。公明党が難色を示しているから無理だろう。継続審議でいい」との消極論を唱えていた。実際は「再議決」−「首相問責決議」−「衆院解散・総選挙」−「自公過半数割れ・野党転落」−を心配していたのだ。しかし自公が衆院で再議決しても世論はほとんど反発せず、民主党も「問責決議案」提出には至らなかった。これは「自衛隊の給油は憲法違反。民主党が政権を取ればアフガニスタンに展開する『国連治安支援部隊』に自衛隊を参加させて、武器使用も認める。これは憲法に違反しない」とした小沢民主党代表の理屈が国民から否定されたことを意味する。
 通常国会の最大の課題は3月31日で期限が切れる「日切れ法案」の処理である。国家予算の執行に重大な影響を与えるので与党は「国民生活に直結する予算案・関連日切れ法案を政争の具にするわけにはいかない」と是非とも年度内成立を図る構えだ。対する民主党は50項目の税制上の特例を定める「租税特例措置」のうち、揮発油税(ガソリン税)の暫定税率を廃止に追い込み、「1リットル当たり25円ガソリン代を引き下げ、国民生活を守る」と主張している。
 諸物価高騰の折、ガソリン代値下げは庶民が歓迎するだろう。しかし民主党はこれにより生じる国・地方合わせ2・7兆円もの「税収不足」をどうするのだろうか。具体的方策を示していない。暫定税率維持を前提に組み込まれている予算案から「道路財源」がなくなり、困惑するのは地方の国民だ。財政的裏付けの乏しいマニフェストを発表して、「参院優位」を盾に日切れ法案を片端から否決し、福田内閣を立ち往生させ、解散・総選挙の政局に追い込むと言うなら「国民生活を人質に取った政略優先主義」と言わなくてはならない。

「山より大きな猪は出ない」
 野党は先ず徹底審議の末予算を成立させ、「日切れ法案」については与野党政策協議に応じて主張を展開し、与党に譲歩を求めるべきだ。参院優位を背景にした「譲歩」が引き出せれば成立に協力すべきだ。自民党も参院の意向を極力取り入れ譲れるものは譲るがいい。どうしてもまとまらない日切れ法案については憲法59条の定める「3分の2条項」を適用して衆院で一括再議決して成立を図ればいい。「未体験ゾーン」だからと言って恐れおののいている場合ではない。ねじれ国会を招いた現職国会議員の責任と判断において新たな慣行を作るべきだ。「テロ新法」で既に新例は拓かれたのである。
 「衆院で再議決すると参院野党が反発、首相・閣僚問責決議案を出す。これを無視すると野党が参院で審議拒否するから国会は行き詰り、解散・総選挙か内閣総辞職の引き金を引く」と恐れる議員が多い。解散の地雷源を踏まないようソロソロと足を運んでいるおっかなびっくりの姿勢だ。「再議決イコール解散」と脅える必要はない。「山より大きな猪はいない」と言うではないか。未体験ゾーンに思い切って突入してみれば、案外与野党からいい知恵が出て、解散せずとも局面打開できる方策が生まれる。解散や連立論議はねじれ国会を一度乗り切ってからでいい。その後で国民の判断に待つべきだ。

平成20年1月28