市場は、大幅利下げを期待
 サブプライム問題が世界経済を震撼させている。問題が表面化した昨年夏以降、米国政府は大幅減税等景気刺激策を打ち出し、FRB(連邦準備理事会)も延べ5回、合計2.25%に及ぶ大規模な利下げを実施している。しかし、市場の動揺は一向に収まる気配がない。このため市場では、更なる大幅利下げを期待する声が強い。しかし、大幅利下げで、本当にこの問題は解決するのだろうか? 筆者の答えは「NO」である。この問題の核心は金融機関の自己資本が大きく毀損していることにあり、利下げはそれには殆ど効果がないからである。
 
自己資本の毀損は信用収縮を招く
 サブプライム・ローンの大半は、組み替えられて証券化されている。そうした証券化商品を保有している金融機関では、サブプライム問題によって損失が発生し、これを処理する過程で、自己資本がかなり毀損されている。このことからも分かるように、金融機関にとって自己資本は損失吸収の重要な手段である。従って、自己資本が毀損したままでは、金融機関は新たなリスクを取ることが困難となる。この場合、その金融機関は新たな貸出の実行について慎重となり、企業や家計等は資金の借入が困難となる。こうした状況は「クレジット・クランチ」(信用収縮)と呼ばれ、わが国の不良債権問題が深刻化した際の「貸し渋り」はその典型である。
 こうした状況では、仮に中央銀行が利下げを行っても(借り手企業の資金繰り好転による金融機関の損失拡大抑制効果や、それによる景気下支え効果は全くないわけではないが)、肝心の金融機関の自己資本の復元には繋がらない。このため、その効果はかなり限定的である。
 
「公的資金投入」なくしては問題は解決しない
 こうした点は、当事者である米国金融機関も当然承知している。このため、増資を行って自己資本を復元しようとしているが、当該金融機関の経営が不安定化している状況では、一般の投資家を対象とする増資は困難である。このため、現在、増資に応じているのは、石油資本等に代表される「政府系ファンド」である。しかし、米国にとっては、安全保障上の問題もあって、これに全面的に頼ることも困難だ。
 こうした状況下では、最終的には政府による「公的資金」の投入に頼らざるを得ない。具体的には、金融機関の発行する優先株取得や、市場での証券化商品の買支え等である。しかし、公的資金投入には、大きな障害がある。それは、議会や国民のコンセンサスを得ることが、かなり難しいという点である。即ち、議会等では、「サブプライム問題は基本的には、融資基準を甘くした金融機関や、それに踊った借り手、更には証券化商品の中味を十分吟味しないままこれを購入した投資家の問題であり、これは『自己責任』で解決すべきもの」、という考えが根強い。わが国でも嘗て「住専問題」の処理やその後の大手行への公的資金投入に際し、野党やマスコミが強硬に反対したことは、記憶に新しい。
 
米国景気は停滞の可能性
 しかし、わが国では最終的には、大手行やその後の「りそな銀行」への巨額の公的資金投入が行われ、これによって不良債権問題処理は大きく前進し、折からの過剰設備や過剰人員整理の進捗等もあって、長期不況から漸く脱することができた。
 こうした経緯からもサブプライム問題の解決については、米国政府による公的資金投入が不可欠であることが理解できよう。しかし、米国政府は、自己資本復元の必要性は指摘しつつも、「基本的には民間が行うべきもの」(ポールソン財務長官)として、公的資金投入については極めて消極的である。
 こうした状況に鑑みれば、米国の株価や景気の本格的な回復はまだ当分先であり、当然、わが国の株価や景気もその影響を受ける、と見ておくべきだろう。
 

平成20年3月3日