後期高齢者医療制度が開始直後から混乱し、国民の不安と不満を募らせている。行政の準備不足が原因で、新しい保険証が届かないという事態や、保険料の徴収を年金からの天引きでおこなうシステムの周知不徹底により国民に不安を抱かせている。慌てた政府は「長寿医療制度」と呼び変えたが、法律名に残る「後期高齢者」という字句自体が、高齢者を切り捨てる印象を与えたことは否めない。
 
原点に返り、見直しの検討を
 新医療制度の導入が検討される基点となったのは、急速に進む高齢社会を迎えて、「国民が格差に苦しむことなく、安心して高齢期を迎えることが出来るよう、公平な医療を受ける」ことを可能にすることを企図したものであった。元々、75歳以上の高齢者は疾病のリスクは高い。従って、健康な時に保険料を払い、疾病したら負担を軽減する、という保険本来の原理に馴染むものではない。「保険」ではなく、むしろ「保障」といった理念で下支えする、という発想であった。しかし、政府は伸び続ける社会保障費を抑制するために保険料の徴収に踏み切った。
 当事者である高齢者の怒りが表面化し、野党の格好の政府攻撃の材料になりかかった。慌てた政府は、06年、自民・公明両党の賛成多数で法案を可決したにも拘らず、政府・与党に「新制度を見直しする」プロジェクト・チームを俄かに立ち上げた。もう一度原点に返り、今度こそ高齢者の心情・声を真摯に受け止めるべき時が来たのであろう。
 
年金からの天引きは一時停止し、周知徹底に努めよ
 天引きシステムは介護保険料の徴収で既に導入されている。納入者が窓口に出かける手間を省き、未納を防止するのがその趣旨である。しかし、3月までに解決するとの福田首相の明言に反し、年金記録記入漏れ問題は未解決のままだ。「年金受給の目途もたたないのに、徴収だけはしっかりするとは理不尽だ」と怒りは爆発した。
 天引きに拒否反応が強いのは、年金制度そのものがしっかりしていないこと、年金そのものが少ない高齢者が多いためだ。公費で支給額を増やす加算制度導入の声も与党内にはあるが、1兆円超の財源確保は難航必至だ。
 新制度の運営主体が広域連合という実体の明らかでない組織に委任されているので、責任の所在が不明確であることも高齢者の不安を募る。都道府県知事が責任を持って当事者が安心できるような体制を整えるべきだ。
 
木で花を括った行政の対応
 新制度で例外的に加入が認められている65-74歳の重度障害者に対し、北海道・青森山形など10道県・22市町が事実上の強制加入を求めていたことが、全国腎臓病協議会の調査でこのほど明らかになった。被扶養者のまま政管健保に加入し続けることも出来るのに、障害者の負担増になる、と協会は指摘する。これに対し、厚労省は、「自治体独自の助成制度の事例であり、国として指導する立場に無い」と言い続けてきた。しかし、加入しない場合は補助の打ち切りを通告された障害者の反発は全国で盛り上がり、これ以上の失態の上塗りは許されない厚労省は、12日、広域連合に新制度に強制加入させないよう14日に指導する、と発表した。
 また、人間ドック受診は全額負担になることも判明した。都道府県の広域連合が、補助金を出す体制を採っていないためだ。厚労省は、「補助金を出すかどうかは、あくまで広域連合の判断」とする。政治家は国民のために、このまま放置しないで行政にリーダーシップを示すべき時ではないのか。
 
避けて通れない安楽死の議論
 終末医療のあり方も検討されるべき時期に来ているといえよう。様々な意見があり、軽々に議論を収斂すべき性質のものではない。イギリスでは、「インフォームド・コンセプト」という、終焉を迎えようとする患者と担当医の間に「安らかな終焉」に関する契約を取り交わすことの正当性が判例で確定されていると聞く。「長寿医療制度」と呼ぶのであれば、ここまでの議論も避けて通るべきではない。
 

平成20年5月26日