もはや看過できない南シナ海での覇権ゲーム
中国の活発な南シナ海での覇権獲得の動きに対して、米国のオバマ政権は明確にそれを許さないことを言動で示し始めた。
先ず、ゲーツ国防長官が6月にアジア安全保障会議で、「米国は航海の自由を脅かす行為に断固として反対する」と中国の南シナ海での覇権活動に警鐘を鳴らした。
さらに、クリントン国務長官も7月のASEAN地域フォーラム(ARF)で「航海の自由は米国の国益である」と述べ、中国の南シナ海における覇権を真っ向から否定した。
追撃の手はなおも緩めない。8月には空母ジョージ・ワシントンを母港横須賀から派遣してベトナムとの協同演習を南シナ海で行ない、強いメッセージを中国に送っている。
このアメリカの対中宥和政策から対中強硬路線への転換は、2月に「4年毎の国防戦略(QDR)」で明確にされた。8月には「中国の軍事力」を発表し、国防総省は中国が近い将来空母を保有し南シナ海での覇権確立を目指していることに多大な懸念を示すとした。
東シナ海もゲームの舞台に
この米中の覇権ゲームは東シナ海でも展開されている。中国艦隊は東シナ海で4月に大規模な演習を行ない、監視をしていた日本の海上自衛艦に対し威嚇を行った。これに対して、米国は北朝鮮による韓国海軍哨戒艦撃沈事件への対処という理由で、空母ジョージ・ワシントンを再度派遣して日本海で韓国と合同演習を行った。そして、さらに黄海でも演習を行う予定である。
QDRでは、中国は東シナ海から台湾、沖縄を経て南シナ海にかかる「第1島嶼(しょ)線」を超え、伊豆諸島からグアムを経てパプアニューギニアに至る「第2島嶼線」までの展開を可能にする軍事力、すなわちA2AD(接近拒否・領域拒否)能力を持とうとしているとして警鐘を鳴らした。
この中国のA2ADに対して米軍は「エア・シー・バトル戦略(ASB)で対処する」(QDR)と宣言している。エア・シー・バトルは、米軍の持つ陸海空・宇宙・サイバー領域の全能力を活用し中国海軍を第一島嶼線の内に封じ込めることを目論む。
大陸から1500kmは中国の聖域なのか?
A2AD戦略では中国は大陸から約1,500qまでの間を「聖域」として、米軍のアクセスを遠ざける戦略的防衛態勢を確立しようとする。もし、中国がA2AD能力を確保した場合、米軍の前方展開基地である嘉手納、岩国、三沢、佐世保は先制攻撃範囲内となり脆弱となる。
しかも、普天間基地移転は暗礁に乗り上げていることから、在日米軍態勢の見直しの可能性は否定できまい。
自衛隊増強は抑止力確保の死活問題
日本は地理的に中国に隣接し、中国の軍事的脅威をヘッジ(抑止)することが必要である。しかしながら、日本独自では中国の強大な軍事力には対抗できない。従って、沖縄には嘉手納(米空軍)と普天間(海兵隊)を中心とする米軍の重要基地を置き、中国に対する抑止力を確保している。
しかし、いまここで実際に駐留米軍態勢の見直しが行われた場合、日本はいかにして抑止力を確保できるのか。―――その場合、自衛隊の増強は死活的となる。
急務となった日本の「南西前方防衛戦略」の確立
米国がエア・シー・バトルのコンセプトを取り入れた場合、それに呼応して日本は防衛力を南西にシフトさせた南西前方防衛戦略を展開する必要がある。
日本は冷戦崩壊時に、北方前方防衛戦略で米国と共にソ連艦隊をオホ−ツク海に封じ込めてきた。それと同じように、中国艦隊を東シナ海の第一列島線内に米軍と共に封じ込める、「南西前方防衛戦略」の確立が今後急がれることとなろう。
2010年9月4日(土)
川上 高司(かわかみ たかし)
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